理事長挨拶

一般社団法人 福岡青年会議所
2021年度理事長所信


理事長 彌登 義明

 仏教に自灯明という言葉があります。解釈のされ方は様々ですが、私は「己が世に光を照らす拠り所となり、如何なる時も己を信じて歩みを進めなければならない」と認識しています。困った時は仲間を頼り、道に迷えば人に尋ねる。しかし、結局最後は己がどうするのか、どの道を歩むのかを決めなければなりません。人が歩みを止める時、それは絶望した時ではなく諦めた時。人が歩みを進める時、それは希望がある時ではなく自らが希望の光となる覚悟を持った時。突如日常を奪われた今、もがき苦しみながらも自らの意思で時代の流れを常に把握し、自らが人々の拠り所となる光となって、その光によって現れた明るい未来に向かってそれぞれが歩みを進めていかなければなりません。

希望の光を、そして新たな時代へ導く

 2020年1月末、中国を起点に感染が広がった新型コロナウイルスは恐ろしいスピードで世界中に蔓延し、健康被害だけでなく経済にも大きな打撃を与えました。同年4月7日には我が日本国においても緊急事態宣言が発令され、感染拡大を防止するべく人と人との交流や接触が8割減らされ、これまで当たり前のように過ごしてきた日常の生活は失われてしまいました。その結果、正常な経済活動を行うことが困難になり、多くの人々が職を失う事態になっています。
 しかし、我々は今こそ知らなければならない。戦後最大の国難と言われる今のような事態を、先人たちは乗り越えてきた実績があるということを。1274年の元寇、1853年の黒船来航、1941年から1945年の大東亜戦争。そして1953年、まだ日本の将来すら見えない時代に戦後の荒廃からこのまちを復興させるべく立ち上がった50名の若者たちが、ここ福岡にいたことを。 空襲により家族、友人を失うだけでなく、職場や住む家すらも失った時代と同じように、人々が必死に生きるために吐き出した息の音や、全てが燃えてしまった臭いこそしないものの、目に見えないウイルスによって日に日に衰弱していくまちの姿が今、目の前にあります。
 だからこそ今、福岡青年会議所の創始の精神を胸に、会員一人ひとりが希望とともに、光満ち溢れる新時代へと人々を導いていくという強い責任と覚悟が必要です。2021年度では、2023年に迎える福岡青年会議所創立70周年に向けて、会員同士の絆を以前より更に強固なものとし、それぞれが力強く立ち上がり、前進するための基礎となる人づくりを中心としながら、新型コロナウイルス終息後の課題である経済復興に繋がる運動を行って参ります。

経済復旧ではなく、経済復興。そして希望のきざし

 第三次産業が9割である我々が住み暮らすまち福岡は、情報も人も行き交う都市として人口や観光客数が右肩上がりで増加し、日本でも有数の都市へと成長を遂げてきました。この成長を紐解くと、1965年に我々の先輩たちが行った「人間都市(ヒューマンシティ)宣言」によって、産業化する日本において、モノづくりではない分野、即ち商業都市こそ未来の福岡のあるべき姿であるとして行政と共にこれを推進し、その結果今の福岡があります。その後、我々は福岡市に対して2010年にはアジア交流首都宣言、2016年にはGrand Design Fukuokaといった提言を行う中で、福岡市もアジアのリーダー都市を宣言し、交流人口の増加によって更なる成長を促す運動を展開してきました。
 この度の感染拡大は、その方針にストップをかけるだけでなく、大きな損失をまちに与えています。このような状況の中、我々がすべき運動は苦しむ企業を金銭面で助けていくことではなく、問題の根本から向き合うことです。如何にしてウイルスと共存し、そこから立ち直るきっかけを企業に、社会に与えていくかが大切なのではないでしょうか。我々はウィズコロナ・アフターコロナと言われるこれからの時代において、短期、中期、長期それぞれのフェーズにおける新しいカタチのビジネスロールモデルを確立していこうと考えています。特に長期フェーズにおいては、2019年からインバウンド強化を目的として展開しているIR(統合型リゾート)誘致に向けた運動をより具体的なビジョンを提案しながら加速させ、経済復興の起爆剤にする必要があります。
 単年度制のJCであろうとも、複数年で物事をとらえ波及効果を追求し果敢に挑戦することが、今までにない創造力を生み出し、深化させることで、福岡をより強いまちにし、それが九州の経済復興、ひいては日本再生へ繋がるという希望のきざしになると確信しています。

今こそ郷土愛を育み、健全な心を育む

 これまで日本においても世界においても、幾多の争いごと、戦争が繰り広げられた悲しい歴史があります。侵略を続けて領土を広げ、繁栄を遂げた国がありましたが、今日まで残っている国はないといっても過言ではありません。それは、その土地土地で大切に受け継がれてきた歴史や伝統、文化を排除し、文明を優先した改革を行ってきたからに他なりません。文化は長い年月に渡り積み重なり、知らず知らず、そこに住む者のDNAに脈々と受け継がれています。福岡にも博多織や博多人形をはじめ、世界に誇れる食文化や伝統的な祭が存在します。
 その中でも特に芸術は人々の心に豊かさを与えるものであります。現在福岡市では歩きやすいまち福岡を掲げ、一人一花運動を展開していますが、これも心を豊かにする新たな文化のひとつではないでしょうか。集うことが困難になり、外は怖いといったイメージもつきつつある今だからこそ、文化によって人々に少しでも心に余裕を、そして幸福を与えることが必要だと考えます。文化と文化が折り重なっていくことで変化が起こり、新しい文化が生まれていくような好循環を生み出していきましょう。

産学官民の連携を活用する

 20歳から40歳の青年が集う我々の団体は、自分たちの会費で全ての事業を行ういわば独立自尊の組織であります。独立自尊の組織だからこそ、失敗を恐れず大胆に運動を展開できるわけでありますが、時代の変化に対応した運動を展開しなければ、孤立した団体になってしまう可能性をもはらんでいます。幸い我々には、我々の運動を支援して下さる多くの企業が存在します。また、このまちには国内外の若き才能が所属し、幅広い分野の最先端な授業を受ける環境が整う多くの学び舎も存在します。そして何より、福岡市は若きリーダーによる常識にとらわれない革新的な取り組みによって、生活しやすく、子育てもしやすいだけでなく、起業などのチャンスに溢れた都市でもあります。
 この愛するまち福岡を今まで以上に発展させていくには、産学官民(民間企業、学校、行政、市民)の連携が必要不可欠であります。個と個の結びつきは大きな力となりますし、近年ではアイディア溢れる若者と企業や団体が手を取り合って新たなイノベーションが生まれている事例も多数あります。
 また、2019年に青年会議所は国連が推奨するSDGsを日本で1番推進する団体になることを決議しています。そうであるならば、福岡でFUKUOKAのために活動する我々はSDGsに加え、行政が推進するFUKUOKA NEXTをはじめとする様々な取組みに目を向け、行政や企業では手が届かないところ、学校や市民が求めているところを、我々でしかできない形で推進することで、福岡のまちを大きく巻き込み、福岡を再生し、九州、日本をも再生する気概を持って運動を展開して参りましょう。

若者や親世代の意識改革と変革の機会

 いつの時代も若者が時代を牽引してきました。流行というものは全て若者から生まれていると言っても過言ではないでしょう。また、インターネットの普及によって、その言動は多くの若者に加速度的に伝播していきます。インターネットは今や現代社会における大人を含めた情報を得る貴重なツールにもなっています。しかし、この便利な道具も使い手次第であります。時に人の力となり、時に凶器にもなってしまうことはインターネット普及時より問題視されており、依然として明確な解決策が見出せずにいるのが現状です。だからといって、インターネットというツール無しでは、もはや生活ができなくなってきている今だからこそ、それを使う人が学び、自らが答えを出し、正しく活用できるようになること、つまりメディアリテラシー教育を推進することが必要不可欠です。そのためには2019年から始まったYoung Jaycee(16歳~25歳を基準)を活用し、自らで真実を捉え、答えを出し、行動することによってマインドチェンジする機会を提供する必要があります。
 また、同時期に始まったKids Jaycee(小中学生を基準)の対象でもあるこども達に目を向けると、こども達の学ぶ環境は、長引いた休校の影響もあり多様化してきている現状があります。こども達が自ら考え、課題を解決する能力が問われる中で、まずは親世代が多様化に対応し、国のそして地域の宝であるこども達の選択肢を増やす取り組みが必要です。
 無限の可能性を秘めた柔軟な考えを持つYoung Jayce世代、Kids Jaycee世代に対し、原体験を通じて自らがこれから何を成すべきであるかを考え、それに対して行動する機会を提供して頂きたいと思います。無数にある情報を自らのフィルターを通して正しい情報に変換するスキルの習得は、近年のインフォデミックを抑えることにも繋がっていくはずです。変化を恐れずに。変化して初めて進化は始まります。

足元が固まってこそ実る大義と会員拡大

 我々の活動や運動は、会社や家庭の理解のうえに成り立っていることを決して忘れてはなりません。あなたが会社を離れれば、誰かがあなたの分も働いてくれています。あなたが家庭を離れれば、奥さんやご主人が親やこどもの面倒をみてくれています。溢れんばかりのまちを想う気持ちも、会社や家庭という足元が固まっていなければ、絶対に波紋を拡げることはできません。経済基盤を整える時間や家族の幸福に費やす時間をしっかりと確保し、その上で会社や家族、知人にあなたの活動を、そして団体の運動を共感してもらうことが大切なのではないでしょうか。あなたがまちを想い、まちの困難や試練に立ち向かおうとする時、青年会議所は皆さんを必要とします。その時にあなたの夢を、想いを全力で発揮できるように準備を整えていて下さい。
 また、会員拡大活動は年齢制限がある我々の団体においては必要不可欠です。如何なる時代背景であっても会員拡大活動は団体の維持、成長に欠かせない活動であり、何より志を同じくする同志の数が多ければ多いほど、そしてその同志が卒業後もひとづくり活動や社会開発活動を続けることが、青年会議所の創立の根幹であるよりよい社会への実現に繋がります。
 しかしながら、活動の資金源である経済基盤が崩れてしまっているメンバーも近年残念ながら見受けられます。新規会員の拡大だけでなく、歯を食いしばって活動してくれている既存のメンバーが活動を継続し、途中退会による会員の減少を防ぐ取り組みも同時に行うことが必要です。

英知を集約して、如何なる時代にも打ち勝つ

 マンパワーこそ我々の強みであるにも関わらず、「集うこと」さえ困難な今、我々は翼をもがれた状態と感じるかもしれません。しかし我々は本当にマンパワーだけの組織でしょうか。幾多の困難を乗り越えてきた百戦錬磨のリーダー達が集まる青年会議所は唯一無二の団体ではないでしょうか。
 福岡青年会議所には1,400名以上の特別会員、全国では692の青年会議所に約36,000名の会員が存在し、世界にはトリオJCであるJCI釜山、姉妹JCであるJCI香港シティ、JCIサウスサイゴンをはじめとして117ヶ国162,000名の志を同じくする仲間がいます。
 また、日本青年会議所、九州地区協議会、そして福岡ブロックにも我々と同様にもがき苦しみながら、自らを奮い立たせ貪欲にチャレンジしている仲間が存在します。2021年度は一人でも多くのメンバーに出向の機会に触れて頂き、出向先で多くの仲間と出会ってください。そしてそこで様々な状況下においても生き抜く力、術を身に着け、それを実社会においても実践できるJayceeに、JCという学び舎を通してなって頂きたいです。

費用対効果とそうではないもの

 わざわざ集う、人よりも多く汗をかく美学も青年会議所にはありますが、これらの根本も考え直す岐路に我々は立っているのではないでしょうか。文明が発展している現在、青年会議所としても会議体のあり方について考えていくことも必要です。Webによる会議が中心に行われている今、何となく物足りない気持ちを抱き、簡素化され過ぎていくことに違和感を持っている人もいるかもしれません。費用対効果を考え効率化、簡素化すべきもの、非効率であってもわざわざ集い多くの汗をかくことで得られるメンバーシップの醸成、メンバーの成長といったものの重要性も認識しながら、バランスよく活動をしていくことが重要です。
 またこれまでのように事業に協賛して下さる企業は減少することが予測されます。会費を払うのが苦しいメンバーも増えてくるでしょう。これまで以上に、如何に時代、人々が求める活動、運動を、費用を抑えたうえで展開するかが鍵になってきます。事業の大小にこだわるのではなく、我々の活動や運動によって、たった一人にでも気づきを与えたり心が豊かになってもらえたりするような事業を作り出していきましょう。

最後に

 新型コロナウイルスの感染拡大、それに伴う被害は想像を絶するものがあります。その影響は今もなお続いており、終わりが見えないこの状況下で不安な日々を過ごしているメンバーも数多くいることでしょう。しかし、我々は下を向くことや後ろを振り返ることに力を使っている時間はありません。青年会議所はこれからの未来を語る組織です。今、この世の中のために、仲間のために何ができるのか。その事だけを考え、我々は会社や家族の理解、協力のもと、ときには我慢を強いながらも、これまで汗を流し、時には涙を流してきたのです。こんな状況の今だからこそ、会社、家族、仲間のために一歩を踏み出そう。その一歩の幅は人それぞれで構わない。けれど誰よりも強く踏み出して、青年会議所での尊い1年を意味のあるものにしてほしい。きっとその一歩は、あなたの大切な人に、愛する福岡に、日本に、大きな勇気を与えるものとなり、いつしか一人ひとりの勇気が折り重なって、まばゆい希望の光となるはずです。その希望の光で世の中を新時代へと導いていく唯一無二の団体こそ、福岡青年会議所であり、そこに所属してくれているメンバーであると私は信じています。大人もこどももワクワクする新しい時代を共に築いていきましょう。